バーミンガム牧原トシ |
| 僕は南部に何回かツアーや観光で行ったことがあるのだけど、一番思い出に残っているのがバーミンガムというアラバマ州の街に80年代半ばに訪れたときのこと。この街はアメリカの地方都市で決して大きな街ではない。だが僕がはじめて訪れた当時 Free Improvisation や前衛パフォーマンスなどが結構盛んで、ミュージシャン、ダンサー、画家などが1つのコミュニティーを作っていた。芸術関係に関して言えば、近辺の大都市、アトランタやナッシュビルなどよりこのバーミンガムや他の中堅都市チャタヌーガ(テネシー州)などの方がよっぽど面白いかもしれない。一般的に言ってアメリカ南部の Free Improvisation のシーンや状況は独特だし、大変面白いと思う。 |
| そんなバーミンガムで Free Improvisation の「核」となっているのが Davey Williams (guitar) と LaDonna Smith (violin, viola, voice) である。僕は、この二人とはバーミンガム以外にもニューヨークなどで何度か共演したことがあるのだけど、本当に素晴らしいミュージシャンだ。彼らのこの30年来の音楽活動が僕をどれだけ勇気づけてきたか。二人のことを思うと、言葉では言い表わせない深い感慨があふれてくる。それは彼らの音楽だけでなく、二人の人柄、南部特有のやさしさ、ユーモアあふれる話しぶり、笑顔・・そういったものが僕の心の中に素晴らしい思い出となって残っているからかもしれない。だから僕はバーミンガムが本当に大好きで、以前「フィラデルフィアをはなれて、バーミンガムに引っ越そうか」とかなり真剣に考えていた時期もあった。あの街の自由な感じ、そびえ立つ大きな木々、そして、なんとなくゆったりとした南部の生活振りは、ニューヨークなどの激しく、暴力的で暗いイメージとはかなり違う。すいかを運ぶトラック、ポーチでギターを弾く老人、バーでウイスキーをのんびりと飲んでいる女の人・・歩いているとバーベキューのにおいがぷ〜んとにおってくる・・そんな街で、バーミンガムはあるのだ。そしてそんな中で、Davey と LaDonna を中心として Free Improvisation をサポートするサークルもまたしっかりと成長して来ている。 |
| バーミンガムにおける Free Improvisation の活動・サポートといった点では、The Improvisor Journal という季刊誌の発刊やバーミンガム フェステヴァルのプロデュースなどがあるが、これも Davey と LaDonna の二人をその核として成長して来た。二人はまた Trans Musiq というレーベルから素晴らしい Free Improvisation のレコーディングを沢山リリースして来た。彼らのレコーディングの中には、グンター・クリストマン (trombone) や アンドレア・チェンタツッオ (percussion) といったヨーロッパ勢も結構参加しているし、Idio Savant (Danny Finney: sax と Pippin Barnett: perc のグループ。ヴァージニア州リッチモンドを中心に活動して来たが現在も存在するかは不明。)や アン・レバロン (harp) などとの共演盤、ソロ、デュエットなどいろいろある。 |
| 僕が初めてバーミンガムに行ったのは1983年で LUMP という当時の僕のグループの南部ツアーの一環としてバーミンガムでも公演したのだった。場所は Apple Books Exchange という小さな本屋で、なんと本棚をみんな壁側に寄せてパフォーマンス スペースを作ってくれた。二階もバルコニーからパフォーマンススペースが見える様になっていて、お客さんは二階と一階にわかれて座っていた。演奏自体ははっきりとは覚えていないが、ひとつ覚えているのは僕が外の歩道に出て行って、スポンジで作ったヌンチャクのような物を振り回したり、他のメンバーがブルックリンなまりで即興会話を繰り広げる・・といった部分、それを見ていた客がみんなよく笑っていたこと・・そしてそういったコメディのような部分が結構受けていたこと・・などである。 |
| 話は飛んで Davey Williams と LaDonna Smith の他に当時バーミンガムで活発に活動していたのが Wally Shoup (sax) と Mary Horn (dance) のデュオで、この二人のパフォーマンスも素晴らしいものだった。ダンスとサックスのデュオによるパフォーマンスとはシンプルなセッティングだが、その分逆に計り知れない可能性を含んでもいる。Shoup はサックスを動きながら吹いたりもしたし、全体的に二人の間には「ダンスと伴奏」という設定は無い。この二人、僕がバーミンガムを訪れる少し前に一度フィラデルフィアの Wet Spot というクラブでパフォーマンスをしていて、当時ひょんな事から僕のアパートに二晩泊まることになったのだった。夜ぼくらはいろいろなレコードを聴いて、酒を飲み夜更けまで話をしていた。で深夜、「セブンイレブンに行こう」という事になって3人で行ったのだが、店内で何とぼくらは1時間もうろうろして商品を評価したり、冗談を言って笑ったり、しまいには即興パフォーマンスのごとき真似までしてひんしゅくを買ったりした。セブンイレブンには確か洗濯石鹸を買いに行ったのだと思う。で、この時僕は最終的に小さなスポンジを2つ、発作的に買ったのだった。何か直感的な買いものだったのだと思う。で僕は数ヵ月後このスポンジで作ったヌンチャクをバーミンガムの歩道で振り回してパフォーマンスをやる事になったのだった。 |
| LUMPツアーでバーミンガムを訪れた83年に Davey と LaDonna が住んでいた家は、それはでかいお屋敷のような家で、ぼくらはそこで数日間 Free Improvisation をやった。参加者は Davey, LaDonna, Mary, Wally と LUMP 三人勢及びその他飛び入り多数で、それはそれはファンタスティックな時間を過ごしたのだった。外でパフォーマンスもやった。みんなで犬を連れてゴルフ場へ夜中に忍び込む。で、即興のパフォーマンスをやるのだ。はるか彼方に Wally の影が見える。竹笛を吹いている Wally の横で Mary が踊っている・・と思ったら彼女は突然走りだす。僕が LUMP のメンバーと木の枝でリズムを作るその横で LaDonna が犬と遊ぶ・・そんな感じだ。その後ゴルフ場を出て、友人の画家のアパートへみんなでおしかけたうえ上がり込んでしまう。彼女はクレヨンと大きな紙を一枚出して来る。で、それにみんなで寄ってたかって絵を共同で描くのだ。7ー8人で一枚の絵を一時間あまりかかって描くと、今度はその絵を見てみんなで酒を飲んで話し合う。とにかく日常が ART で溢れているような日々をぼくらはあの街で過ごした。あの絵はどうなったのだろう。過ぎ去った一部屋での即興描き合戦。なんというのか「自由」だったのだ。バーミンガムにおけるそれらの経験は、パフォーマンス以上に重要なものであったと、僕はつくづく思う。あの街にはそういったアーティスティックで自由な「場」があって、訪れる度に素晴らしい経験をもたらしてくれる。バーミンガムとは僕にとって本当にそんな街なのだ。 |
| 一度 Davey がロックのコンサートをやる・・というので聴きにいったことがあった。で、そのバンドというのがブルース・ハンプトンという人のグリースバンド。なんというのか「アヴァンギャルド カントリーロック」とでも呼べそうなその音楽は、南部のポピュラー音楽(カントリー、ブルース、etc.)とアヴァンギャルドな要素がいり混じっていて、面白かった。ブルース・ハンプトンは知る人ぞ知るバーミンガムのアンダーグラウンドな音楽家で、エレキ マンドリンに弦を4本だけ張ってあるやつをひいて歌う。たしか彼のバンドは弦楽器ばかり5人とドラマーという構成で、弦楽器はギター2人、バンジョー、ベース、マンドリン・・という構成だったと思う。ドラマーがなんというかシンプルで無駄な音がなく良かった。Davey は Free Improvisation のテクニックを駆使したノイズまがいのソロをカントリーなビートの上に乗せたりした。僕の近くにいたお客が「あのギタリストどうかしたの?」(What's the matter with that guitar player?) というような事を言って首をかしげていたのを覚えている。Davey は野球のミットにモーターをいろいろくっつけたやつを手にはめてギターでノイズ的ソロをやりまくっていたのだ。ところでブルース・ハンプトンという人は競馬のプロでもある。実際彼は競馬で儲けて生計を立てているのだ。 |
| バーミンガムの思い出で忘れられないのが食べ物だ。朝食はグリッツ、夜はバーベキュー。それがまた美味しいのである。訪れると必ず必ず行く「Tired Texan BBQ」という出店があって、僕はそこのバーベキューが大好きだった。メニューで忘れられないのが、「豚耳サンド」と「Dammit (Damn it) to hell」というやつ。豚耳サンドはそのものずばりで、お湯で煮た豚の耳が2ー3枚食パンに挟んであって、マスタードをかけて食べるというもの。これはさすがに試したことが無い。豚耳にはなんと毛が生えていた。Dammit・・の方は、豚の肩肉をものすごい辛い唐辛子のソースで煮込んだものをハンバーガー状にして食べるもので、一口食べると口から火を噴く。通はこの辛いやつの上にさらに唐辛子の粉をかけて食べるらしい。話によるとこの店のオーナーはもうすぐ引退するということ。彼が引退する前にもう一度食べに行きたい。なんと言うのか日本で言えば「うまいラーメン屋」的な雰囲気で、バーベキューの好きな人にはたまらないだろうと思う。 |
| というわけでずいぶん長々とバーミンガムについて書いてきたが、それぼど僕はこの街が好きなのだ。しかし残念ながら80年代後半から90年代半ばにかけバーミンガムの連中とは連絡が途絶えてしまった。Mary Horn と Wally Shoup はシアトルへ移る。その後 Mary は結婚してニューオリンズに引っ越したらしい。Wally はシアトルに残って地元の Free Improvisation の中核的存在として活躍している。最近僕はWallyとはたくさん仕事をしていて、Thurston Moore と3人でCDも出した。彼は Seattle Free Improvisation Festival を毎年開催し、自己のグループ Project W でもつい最近CDをリリースしたばかり。Davey と LaDonna は相変わらずの様だ。上にも書いたが、Improvisor Journal を出版し、レコーディングをし、ヨーロッパに毎年行く。Davey はそういえば George Cartwright のバンド、CURLEW でも演奏している。 |