特別食堂のマドンナ 心の死滅
入谷なってるハウス フィラデルフィア近況 2004年春
ニューオーリンズ:Gas Tank Orchestra クリーブランド:Speak in Tongues
ニューヨーク:Amica Bunker バーミンガム
Kathy Change Sean Meehan
Misha Feigin Amy Denio
Leonardson-Finkelman Duo すいか
ボブ・ディラン: No Direction Home


Leonardson-Finkelman Duo

牧原トシ

今年の初めにシカゴの Eric Leonardsonから email をもらうまでは、僕は彼の仕事・音楽作品についてはまったく知りませんでした。アメリカはとにかく広くて、一つ一つの街に数多くのさまざまなパフォーマーやアーティスト達がいるけれど、あまり街同士の交流、情報交換というのは行われていない。Philadelphia と New York のように、たった2時間しかはなれていなくても、お互いの街にどういったシーンがあるのか・・という情報は、努力して得ない限りなかなか得られない。まあ、これはどこでもそうですが、各都市の数多くの実験的・前衛的パフォーマー達についてそれぞれアップデートされた情報をコンスタントに確保するというのは、大変手間のかかる作業でありました。しかし最近ではインターネットによりそれがより簡単にできるようになってきました。実際最近は公演やプロダクションへの連絡などはインターネットによるものが殆どで、コンサートの当日になってはじめて相手に会う・・ということが多いです。アメリカ各都市で、free improvisation のコンサート活動が活発になってきたのも、インターネットの貢献が大きいと思います。そしてその状況は、アメリカ国内にとどまらず、世界中に広がるネットワークとなりつつあり、そう言う意味においてはすばらしい状況だと思います。

さて、そう言うわけで今年はじめに Eric Leonardson から連絡を受け、僕は彼のホームページ を確認し、そのあと彼が送ってきたCDを聴くにあたって大変感動したので、ぜひ Philadelphia でも公演を・・ということで話がまとまりました。今回のツアーで彼はニューヨークとボルチモア、およびワシントンでも公演をする予定だったので、その中間点のフィラデルフィアでも一日・・ということで計画を立てたわけです。最初はソロということで話を進めましたが、ニューヨークの Knitting Factory でやった Jason Finkelman (perc) とのデュオが大変良かったということで、急きょフィラデルフィアも Jason とのデュオとしてコンサートをやることになりました。Jason の方はもともと Philadelphia の出身で、Charles Cohen (synthesizer) と Straylight というアンサンブルをやっており僕も何度か共演していますが、すばらしい percussionist です。

Eric Leonardson の使っている楽器は自作のもので、Springboard といいます。この楽器自体は割とシンプルなアイデア・作りなのですが、彼がそれを使って出すさまざまな音は、本当に不思議ですばらしいものです。楽器について簡単に説明しますと、大きな板にあらゆるバネ、スプリング、薄い板、大きな缶、輪ゴムなどを取り付けたものを、たたく・こする・弓で弾く・はじく・・などの方法によって演奏し、その音をエレキベースのピックアップでひろって増幅、それにさらに delay などのエフェクトをかけていく・・というもので、実際見た感じも sound scrupture (音具彫刻)という感じで面白いです。Springboard は鈴木昭男のいくつかの音具に似ているところもありますが、Leonardson の場合はもっと electric を駆使した演奏方法に重点をおいているようです。

Jason Finkelman はあらゆる民族楽器 (打楽器・弦楽器)と Found Objects (拾った金属片など)を演奏しましたが、民族楽器はアフリカのバラフォンや一弦のバイオリン、コンガ、インドのベル、ブラジルのビリンバウという具合に国際色に富んでおり、彼は演奏の中でそういった楽器がそれぞれ持つ「伝統」「文化的カルマ」といったものを大切にする反面そこから一挙に飛躍しようとするパワーもあります。これは、たとえば他の伝統楽器を演奏する即興演奏家、たとえば Philip Gelb (尺八)などの活動についても言えることですが、即興演奏にたいする一つのユニークなアプローチとして注目できると思うんです。

さて二人の演奏ですが、これはまことに素晴らしいものでした。最初、僕は2人の楽器の組み合わせを見て、かなり違った傾向のものに見え、どんな音楽になるのか心配していました。ところが実際に演奏が始まっておどろいたのは、この二人の出す音・二人の演奏には豊かな調和があり、ぶつかり合うような違和感がぜんぜんなかったことです。これは意外で、僕は本当に感激しました。あとで、ゆっくりと考えてみたのですが、すこし状況が把握できました。僕なりに思ったことを箇条書きにしてみます。

1.まず、Springboard という楽器自体が極めて「打楽器的」であること。これはEric の演奏方法にも当てはまりますが、テクニックは打楽器奏者のそれです。で、それが Jason の打楽器と演奏上かなりバランスのとれたものになっていること。Eric 自身打楽器のバックグラウンドがあるようで、ブラシなどを巧みに使ってかなり面白いポリリズミカルな音楽を作っていました。

2.Jason の使う伝統楽器にしても、Eric の Springboard と構造的に似ているものが多い。たとえば、親指ピアノ。これなどは木の本体に金属棒が設置されている・・バラフォンは木琴ですが、これも構造的には Springboard と同じ。ビリンバウにしても木の本体に wire が張ってあるものを棒でたたく・・これも Springboard の構造と同じです。つまり、一見「かなり違った傾向」に見えてしまう二人の楽器にはかなり強い構造上および演奏方法、スタイルにおける共通点があるわけで、それらがでてくる音楽の「調和性」の直接の原因となっているのだと思います。

3.楽器の構造や演奏方法だけでなく、一番大切なのは2人の音楽演奏に対する態度に一つの調和性がある・・ということだと思うんです。この場合の「調和性」とは、決して「二人が同じような姿勢で臨む・・」ということではなく、二人の音楽的関係が大変良い意味で助け合っていること。仲の良い夫婦のように、やっていることや姿勢は違っても、2人がつくりだす音楽には無理の無い協調性がある・・ということです。これは、たとえば「自分」個人の特殊性を主張することが中心となるような演奏とはかなり違うアプローチであり、ダンスにおける Contact Improvisation のように相手との協調性を求めるもので、僕としても考えさせられる部分があります。

・・というわけで、いくつか考えたことをまとめてみましたが、演奏上気がついたことをもういくつか書いて見ます。まず上記3の「関係性」ですが、Eric の Springboard の演奏はかなりスタイル・技術・演奏法が確定されていて、演奏は solo / duo にかかわらず、ある程度決まった方法で音を出して行く・・という感じだと思います。反面 Jason はいろいろ楽器を持ち替え、巧みに Eric の音に「色」をつけて行く・・という印象がありました。ただ彼の場合、「持ち替え」過ぎている部分があって、落ち着きを失う印象も在りました。もっと一つの楽器、バラフォンならバラフォンでじっくりデュオる・・というのもいいのではないかと思いました。・・というのは、Eric の方はとことん「じっくり派」だったからです。

あと面白かったのは「輪ゴム」で、これはなんとも弦楽器とも打楽器ともつかない不思議な音世界を作っていました。音にも伸び縮みするような性格があって実際に伸び縮みする輪ゴムを見ながら伸び縮みする音を聴くのは面白かったです。それにアンプによる増幅の効果。これは先ほど書いた二人の「調和性」ということにもつながるんですが、二人の音をアンプで増幅することで、「スピーカーから出される音」としての音響的共通点もつくられる・・ということ。これは、たとえば Jason がアンプ無しでやった場合とはバランスがだいぶ違ってくると思います。・・というわけでなかなか面白いコンサートでありました。