Misha Feigin牧原トシ |
| 二ヶ月ほど前 (1998)、Misha Feigin から「ユージン・チャドボーン の知り合いで、ギターをやるんだがフィラデルフィアでコンサートが出来ないだろうか?」というメッセージが入りました。僕は彼について何も知らなかったのですが、チャドボーンの推薦ということで、早速本人からテープなどを送ってもらいました。彼のバイオグラフィーを読み、テープを聴いたのですが、今までに無いユニークな角度から即興演奏に入り込んできた人で、とても新鮮な印象がありました。「今までに無いユニークな角度」というのは、彼のロシア時代のバックグラウンドがロシア・フォークソングだからで、実際彼はモスクワの音楽界ではかなり有名な(だった)人。国立 Meloddiya レーベルから4枚のアルバムを出し、国際的レベルでツアーをしたりしていたロシア・フォーク界の大物なのです。そんな彼がおそらく政治的な理由でアメリカに移ったのが1991年、現在はケンタッキー州のルイビルという街に住んでいます。ギターやバラライカによる即興演奏は、80年代初頭から始めたようで、伝統的なフォークと即興演奏を合わせた「Spontaneous Folksongs」なんていう音楽(ジャンル)もつくっています。 |
| 彼はニューヨークの Knitting Factory で Elliott Sharp らとコンサートをやるということで、その前日にフィラデルフィアにも寄ってもらってコンサートをやりました。コンサートは前半 solo、そして後半はフィラデルフィアの Sonic Object Trio とのカルテットという編成でした。Sonic Object Trio は Todd Margasak (trumpet), Dave Champion (trombone) そして牧原 (percussion) という編成なのですが、素晴らしい経験でした。 |
| まず、第一セットのソロは強烈で、クラシックギターやロシア・フォークの伝統的な奏法とアブストラクトで倍音の響きをふんだんに使った Derek Bailey 的奏法が合わさったような Misha のスタイルは、今までに聴いたことの無い新しい世界を作り上げていました。アコースティックな奏法でギターの可能性を追求する・・という点は、Derek Bailey などの方向性と同じですが、Misha の演奏の特徴は彼の伝統的スタイル、クラシックやロシア・フォークのギター奏法、ハーモニー、歌ごころ、感情・・といったものを捨ててしまわず、新しい即興の方法の中に生き生きと組み込んでいることです。これは僕にとっては真に新鮮な驚きそして感激であり、いろいろと後で考えるところがありました。特に「感情」というもの。彼の演奏は即興演奏であっても、感情のこもった「歌」というイメージが強く、ある種の「ストーリー性」、「物語性」のようなものがあるのです。これは今まで deconstructive な即興スタイルに慣れてきた僕の耳、感性にとってはまったく新鮮な驚きでありました。 |
| このロシアの伝統とヨーロッパの Free Improvisation が、 Misha の新しいスタイル・方法として「spontaneous folksongs」というジャンルに統合的に鍛えあげられてきたわけで、そういった意味で彼の即興音楽へのかかわりは大変ユニークであり、一つの文化的な緊張感に満ち溢れています。僕は彼のバックグラウンドに関しては殆ど何も知らないのですが、演奏の中に二つの核とその緊迫した関係性のようなものを感じ取ることが出来ました。二つの核の一方はロシア、伝統、過去、民族性・・といったもの、そしてもう一方はアメリカ、free improv、現在、超民族性・・といったものです。Misha の中のその二つの核は互いに対立しあうものとしてあるのではなく、未来に向かって支え合う一つの統合された全体性であり、とても「暖かい」感じがしました。これは、Derek Bailey のような「クールな」即興とも Free Jazz のような 「ホットな」即興とも違う、新しい印象であり、そういった意味で僕にとっては大変な驚きであったわけです。彼の音楽の「暖かさ」は、クールとホットの中間というような生ぬるくいい加減なものではなく、彼が命がけで求めてきた自由な統合性に支えられたものであり、それは彼自身の「旅」の中で直接表現されてくる感情性によるものであると、僕は思うのです。 |
| ・・というわけで、結構ショックの強かったソロのセットのあと、カルテットでの演奏・・となったのですが、これもまた違った意味で興味深いものとなりました。まず気がついたのは、カルテットにおける Misha の演奏が、もっと abstruct で脱伝統的な感じになったこと・・これは、彼が「プリペアド・ギター」などの奏法、ソロでは使わなかった方法を駆使したり、笛やスプーンなどギター以外の音を取り入れたり、ノイズ的な演奏・・といった方法に集中していたことがまずあります。そして Sonic Object Trio の演奏が、良い意味でうるさくなく、メローな感じになったこと。これはギターの音量が低かったことが直接の原因ですが、それ以外にやはり第一セットが僕等に与えたインパクトが強かったのだと思います。僕自身リズミカルなアプローチ(ジャズやサンバのスタイルを取り入れたり)、や Melodic なアプローチ(太鼓類をメロディー的に使う)といった方法は普段はあまりやらないのですが、今回は結構抵抗無くそういった演奏をし、それが逆に成功した部分もあると思います。Misha 自身も ノイズ奏法ばかりではなくフォークソングの奏法やバラライカなども使っていました。僕の「メロディー太鼓」にギターのアルペジオをのせて、歌を歌う・・というようなこと、単に即興・・というだけでなく、スタイルやアプローチの統合性といったものが追求された部分もあり、大変すばらしい経験でした。 |
| Misha はアメリカのギタリストたちとよく演奏活動をしていますが、たとえばアメリカにおける Eugene Chadbourne や Davey Williams の活動の中にも、自分たちの「伝統の再発見」のようなプロセスはあると思います。たとえば Chadbourne がニューヨークから南部に引っ越して Shockabilly のようなアンサンブルを始めたのもカントリーやブルーグラス、はては Jimi Hendrix などの再発見があり、それらのスタイルと即興演奏との新しい統合の試みのようなものがあったのだと思います。Davey Williams と南部ブルースの関係にしても同じようなことが言えると思います。そう言った意味で、彼等の試みとMisha Feigin の ロシアフォーク+即興の統合プロセスとは平行している部分はあると思います。そして、彼等がいっしょに仕事をしているような状況は大変に興味深いものがあります。 |