特別食堂のマドンナ 心の死滅
入谷なってるハウス フィラデルフィア近況 2004年春
ニューオーリンズ:Gas Tank Orchestra クリーブランド:Speak in Tongues
ニューヨーク:Amica Bunker バーミンガム
Kathy Change Sean Meehan
Misha Feigin Amy Denio
Leonardson-Finkelman Duo すいか
ボブ・ディラン: No Direction Home


クリーブランド:Speak in Tongues

牧原トシ

11月11日 (2000) に単発でフィラデルフィアからオハイオ州クリーブランドまで行って公演してきた。フィラデルフィア在住のギタリスト、Ric Iannacone とのデュオで、僕らはニューヨークで活動するアンサンブル Quttah の前座として Speak in Tongues というクラブに出演した。フィラデルフィアからクリーブランドまでは片道約420マイル (670km) もある。こんな長距離を往復運転して一回だけコンサートをやって帰ってくるっていうのもご苦労なことだが、今回はギャラが良かったことと、泊まるホテルの部屋も先方で用意してくれるということで、「じゃ行ってみようか・・」という話になった。

Speak in Tongues は「クラブ」とはいえ、さびれた大部屋という雰囲気だ。クリーブランドの西の端の方にある。町の中心部からはかなり離れていて、近所は日本で言う「場末」の雰囲気の町並みだ。本当に寂れた感じで、回りには店やレストランも無い。角のガソリンスタンドだけがこうこうと明るく電気をつけている。はっきり言って、あまり良い環境とは言えない地域だ。Speak in Tongues は、もともとはボーリング場(5レーンぐらいの小さいもの)だった建物で、昔レーンがあったあたりに今はでっかいステージを二段構えで作っている。元ボーリング場ということで、もちろん縦に長い空間である。そこで彼らは、この部屋の長さを利用してステージを奥深の2段構えにしているのだ。これはいい考えだと思った。「奥深の二段構え」というのは、つまり前部と後部に高低2レベルのステージがあって、奥の方の第二ステージが一段高くなっている。つまり低いステージの奥に一段高い第二ステージを作っているということだ。天井が高いこともこういう設定を可能にしている要素だろう。この二段構えステージの設定は便利で、たとえば前座を低い第一ステージに、そして本命のバンドを高い第二ステージにセットしておけば、休憩時間にどたどた楽器の設定をしなおしたりする必要も無い。ここはパフォーマンスアートや実験演劇などもやるようで、この高低二つのステージはそういったジャンルにおいてもいろいろと面白い使い方が出来そうだ。部屋の横にはバーがあるが、営業はしていない。酒類を客に出す免許を市から得ていないし、バーではなくパフォーマンス・スペースなのだという自負があるのだろうと思う。だから客は勝手にビールやソーダを外から持ち込んで、なにもおいていないバーに座って飲んでいる。こういうのはいいなあと思う。

Speak in Tongues は5−6人の共同体で運営されており、メンバーが割り勘で毎月家賃・光熱費・運営費などをシェアしているようだ。はっきり言って、こんな場所が儲かっているとは思えないし、非営利団体として市に登録しているわけでもないので芸術支援の補助金も出ない。つまりここは本当に音楽好きな仲間が集まって、自腹を切ってやりたいことをやっているというのが実態のようだ。アメリカにおいてはこういった場所が増えていて、僕がツアーなどでどさ回る venue もこういう場所がほとんどと言っていいだろう。さまざまな街のさまざまな venue についてこれからもエッセイを書き込んで行きたいと思う。

さて、ブッキングに関して言えば、それぞれのメンバーが担当するジャンルがあるようで、ロックなら彼女、ジャズなら彼・・という風に担当者が決まっているようだ。共同体のリーダー格である Ralph Hersman は Jazz, Free Improvisation, Noise といった Experimental のたぐいを担当している。ところでここは見かけや内装はボロだが、サウンドシステムだけは結構いいものをおいてある。スピーカーやアンプは良いものを使っているし、コンサートをデジタルで録音する設備などもちゃんとしている。今回は、Fourth World という別のプロダクションが企画したコンサートでギャラもそこからしっかりと出ているので、Speak in Tongues のメンバーたちは客入りなどの心配はさほどしていない様子だった。実は僕は9月にもここで Fourth World 主催のコンサートに出演した。そのときは ROVA Saxophone Quartet のオリジナルメンバーの Andrew Voigt のアンサンブルでのツアーの一環としてクリーブランドにも寄ったのだった。だから、僕はこれでここでの演奏は2回目だ。

この Fourth World というプロダクションについてもう少し触れると、彼らはどちらかというと美術やパフォーマンスアートのイベント・展覧会などを主催・企画するプロダクションで、おまけ程度に年に何度か音楽のイベントもやるという感じ。このプロダクションに関して重要なのは、この十年ほど年一回の割で彼らが続けてきた Cleveland Performance Art Festival だ。これは世界的に有名になったフェスティヴァルで、内容をパフォーマンスアートだけにしぼったフェスティヴァルというのは恐らくここだけだったのではないだろうか。アメリカ各州や海外からもたくさんパフォーマーたちが来て公演したが、昨年のイベントを最後に終止符を打つことになった。大変残念なことだが、その反面最近 Forth World はいろいろ単発のイベントを企画するようになり、音楽のコンサートなどもプロデュースするようになったので僕ら音楽家からすればありがたいことである。

今回僕が共演した Ric Iannacone についてちょっと触れてみよう。彼はもう30年もフィラデルフィアで活動してきたベテランで、僕も何度か共演してきたがデュオというのはこの15年の付き合いで今回が初めてだ。彼は Free Improviser というよりもR&Bなどにルーツを求めるファンキーなスタイルで、オーネット・コールマンのプライムタイムの流れ、70年代のマイルス、Weather Report などの影響も強い。だがその反面、ループの機材やアンビエントな音を駆使して壮大なサウンドスケープを構築することもできる多才なミュージシャンである。だから即興においても「電子音楽」的アンビエントな音とR&B的なファンキーなスタイル、そして自由即興の実験性がいりまざった様な彼のギタースタイルは、実際大変独特で他に類を見ないものだ。彼はプライムタイムにいたベース奏者、Jamaaladeen Tacuma とよくツアーを組んでいるし、自己のバンド「ニュー・ゴースト」も大変オーネット・コールマン的でハーモロディックなスタイルで演奏することが多い。だが、即興においてはさまざまなエフェクトペダルを駆使した電子音楽といえるような音・演奏である。たまに歌も歌うが、これがまるでダイアナ・ロスのような感じで面白い。彼は大変ユニークな人柄で、ポピュラー音楽の歴史に関してはものすごい物知りである。今回も彼は帰り道の車の中で Stevie Winwood の話をはじめたが、なんと4時間話しつづけた。Winwood のレコード一枚一枚を説明し、経歴からスタイルの変化などについてそれは詳しく説明しつづけたのだ。実は僕は彼とアナログ・シンセサイザーの Charles Cohen と組んだトリオで最近スタジオ録音もしており、来年には「フィラデルフィアの即興」を旗印に僕のレーベルからCDをリリースする予定がある。これについては、のちほど別のエッセイを書くつもりだ。

さて、僕らの後は本命の Quttah アンサンブルの登場だ。このグループはニューヨークを本拠に活動を続けているグループで、メンバーは次のとおり:Rob Reddy (saxophone), Jef Lee Johnson (guitar), Charles Burnham (violin), Rufus Cappadocia (cello), Dom Richards (bass), そして Hearn Gadbois (percussion)。弦楽器四人にサックスと打楽器という編成は大変ユニークだ。演奏はやはりオーネット・コールマンのハーモロディックなスタイルで、特にリーダーの Rob Reddy のサックスはオーネットからの影響を強く感じる。打楽器のセッティングは大変ユニークで、ジャンべをはじめあらゆる Hand-drums と Hi-hat シンバルなど普通のドラムセットの要素が混ざったようなセットはアフリカや中東のスタイルからスイング・ジャズまでカバーできる幅広さで、僕には大変興味深かった。チェロ奏者は、インドのラーガの様なソロをやったし、ギターの Johnson (彼もフィラデルフィア在住で、先述の Ric Iannacone とは友達だ。)はブルースやR&Bの影響が強い。なんというか作曲においても意識的にいろいろ音楽スタイルを混ぜている感じがあり、面白かった。打楽器の変わったセットもそれらの混ぜこぜスタイルのあらわれの様である。今回彼らは一週間のツアーでニューヨーク州北部、ペンシルヴァニア、カナダ東部などを回っているようだ。クリーブランドでニューヨークのアンサンブルに出くわすのも、旅の面白さかもしれない。僕らは名刺を交換して別れを告げた。

というわけで、長距離運転は疲れたが、大変意義のあるクリーブランド遠征であった。12月はじめに Misha Feigin とデュオで再び中西部を回るが、その一環としてまたクリーブランドに訪れるかもしれない。その様子はまた追って書き込むつもりである。

2000年11月