特別食堂のマドンナ 心の死滅
入谷なってるハウス フィラデルフィア近況 2004年春
ニューオーリンズ:Gas Tank Orchestra クリーブランド:Speak in Tongues
ニューヨーク:Amica Bunker バーミンガム
Kathy Change Sean Meehan
Misha Feigin Amy Denio
Leonardson-Finkelman Duo すいか
ボブ・ディラン: No Direction Home ポケットPC


すいか

牧原トシ

自分の殻を打ち破って、自分を守ってくれる要塞から勇気を出して外に出て行くっていうのは、やっぱり痛みを伴う部分がある。出てしまえば、結構楽しかったりするし、その度に学ぶことも多い。自分が新しいことを学び、新しい状況に遭遇し、新しい人々と出会ってゆくプロセスが人生の喜びなのだし、だから痛みを覚悟で結構しんどい状況に向って出かけてゆくのだ。勇気ってのはそういう出かけようとするエネルギーのようなものなのかもしれない。毎日新しい生活に向かおうとする意思だ。

2003年の夏に放映されたテレビ番組、「すいか」の一場面に主人公の一人が中学生の時から貯めていた貯金箱(というか大きな瓶にぎっしり詰まった100円玉)を手押し車に乗っけて原宿へ使い切りに出てゆく・・というのがあったけれど、彼女の場合この貯金箱を叩き割るのに20年近くかかっている。100円玉がぎっしり詰まった大瓶は重い。そしてこの重い瓶を抱えて竹下通りにくりだす34歳のOL。身軽になる・・っていうのはこういうこと。こんな風に人生どんどん身軽になってゆければ良いなあ・・なんて思うこともある。

人間は歳をとってくると冒険はしなくなるし、安定した生活と収入、家庭などを求めるようになる。これはもっともなことだし、僕とてそういう部分がある。でもその反面、夢を抱き、愛を求め、冒険をしたいと思っている部分もある。僕はその辺のバランスが取れないでいるし、その二つの間にはさまれて「痛み」を感じたりしている。結局自分に、自分の生活や生活のスタイルに固執しすぎて動きが取れない状況なのだ。なんか一挙に生活を変えてみたい!なんて思う時がもう毎日のようにある。

身軽になろうとするのは、カネや数で計算できるものが実はこの世で一番安っぽいものだと気が付いた時だ。清志郎の歌う「なんでもかんでもカネで買えると思い込んでるバカなやつらに見せてあげたい、彼女の笑顔」ってなもんだ。

「すいか」にはこのメッセージがいたるところに出てくる。貯金箱の話、6万円のブレスレットを男にプレゼントされ「こんなものいらないよ!あんた何考えてんの?あたしに何をして欲しいのよ!?」と怒って歩き去る女。3億円という大金を銀行から横領した従業員が結局その大金をドブに捨てるようにブランド製品などを買いまくって、しかもその挙句それも全部捨ててしまって「身軽」に行方をくらます話(小泉今日子の演技が結構素晴らしい)。彼女はころんだ小学生の女の子を助け、そのあげく女の子の破れた袋を見て自分の持っていたヴィトンのバッグをあげてしまう。そしてそのお礼に女の子から飴を一個もらう。その飴が彼女を勇気づける。3億円盗んでもうれしくもなんともなかった彼女はこの飴を口に入れた時、生きることの真の意味を悟る。

ペット用のウサギを買う際に、ウサギが万が一死んだときの「返金保証」を売り手側にしつこく要求していた男が、いざそのウサギを飼い始めたとたんそんなことは忘れてしまい、そのウサギを本当に心からかわいがり始める。そして「保証」を要求していた時の彼の暗く怒った表情が一変して菩薩のようなやすらかな笑顔に変わる。

勇気を持って自分の殻から外に出てゆく・・というのはこういうことを言うのだ。「貯金箱」や「ブレスレット」や「3億円」や「ヴィトン」や「返金保証」などを忘れ真に生きる瞬間を求める。それは自分が無に戻った時、逆に世界のあらゆる可能性が自分の目前にありありと現れてくる・・ということだ。

僕はそういうところをこのドラマから学んでいる。正直うれしい。テレビドラマを見てこんなに感動したのは初めてだ。僕自身そういう意味で勇気をだして進んでゆきたい。

2004年5月